僕がデザイナーとして協力するクライアントは、スタートアップかまだプロジェクト段階のチームであることが多い。
彼ら・彼女らを示す最適な言葉は「起業家」だろうか。
そして、僕のデザイナー以外の活動で出会う方々の多くもまた起業家であり、結局、最近の仕事仲間は起業家で溢れかえってしまっている状況だ。
まあ、そもそも僕自身も法人化などはしていないものの、一応「起業家」な訳で（デザイン以外にいろんな活動をやっている、、ということ）、こうなることは必然だったのかもしれない。
デザイナーは何者？
このような状況になったことで、デザイナーとしてすごく良い経験ができていると思っている。
僕は、デザイナーのミッションを「誰かの形にできないものを形にすること」だと考えている。
みんなそれぞれに考えや伝えたいことがあるけど、だいたいそれはモヤモヤとしていて他人にはあまり伝わらない。
本当にそれは、まるで「わたあめ」みたいにモクモク・フワフワとしていて、どうにも一定の形に収まってはくれない代物だ。
そんな「わたあめ」を、まあ、確実に「これだ！」という形はないけれど、誰かにきちんと伝わるように固めて渡す。
それが、僕たちデザイナーのミッションだと思っている。
そのミッションの下、様々な表現方法に特化していった結果、グラフィックデザイナー、Webデザイナー、UI/UXデザイナー、、などデザイナーはその他諸々の職種に別れていったわけだ。
「デザイナー」と聞くと、やっぱりどうしても、Macを軽快に使いこなしながら、エスプレッソを味わい、おしゃれで観葉植物がたくさんある木目調が美しいカフェで、足を組みがら作業しているイメージがあるんじゃないだろうか？
（誇張しすぎただろうか？これは僕の偏見も大いに入っている。
…ただ、実際よく考えてみると、僕も今仕事中におしゃれなカフェにいて、足を組んでMacを軽快に使いこなしているではないか！）
でも、デザイナーがやっていることはそんなに敷居が高いことではないんだ。
実際は誰もが思いついたことや自分の考えを”言葉”で誰かに伝えるように。
それと同じくらいの感覚で、極めて自然に、クライアントの求めるものを表現しているだけなんだ。
そう気付くことができたのは、デザイナーとして動く一方で、起業家たちとさまざまなプロジェクトに取り組んできたからだ。
僕の考える「起業家」と「デザイナー」
起業家は自分の中にあるビジョンやサービスの概要を最適な言葉で相手に伝える必要がある。
そうすることで、仲間を増やすことができるし、いろんな人から意見がもらえて自分のアイディアを今よりもっと磨くことができる。
起業家がそのモヤモヤとした考えをなんとか形にして、言葉にして、声を出して相手に伝える。
このプロセスとデザインのプロセスはほとんど一緒だ。
デザイナーは誰かのモヤモヤとした考えを自分なりに形にして、グラフィックやキャッチコピーにして、視覚的に相手に伝える。
「エンジニアも同じようなプロセスで形にしているよね！
という意見も聞こえてきそうだが、エンジニア以上にデザイナーは「起業家じみて」いると、僕は思っている。
こういったことに気づき始めた僕が、一番に思ったのは、少し極論ではあるが「起業家はある意味、デザイナーである。」ということだった
職種としてはもちろん違うが、本質を見れば見るほど起業家とデザイナーの差は小さくなっていくように感じられる。
詰まるところ、結局やっていることは同じ、という結論に至る。
皆さんはどう思うだろうか？
起業家が近くにいなければ、積極的に何かしらの活動をしている知り合いを思い出してほしい。
その人がやっていることは、デザインのプロセスと非常によく似ていないだろうか？
だが、大きな違いは存在する。
もし、この考えに共感してくれたなら、ありがとう。
共感者がいるのはとても嬉しいことだ。
だが共感してもらったところ悪いのだが、早速この考えを否定してみたい。
決定的に、起業家とデザイナーには大きな違いがあるのだ。
それは、「スキル」だ。
デザイナーは何かを視覚的に表現することについては、ものすごく精通している。
並みの人間では太刀打ちできないほど、デザイナーたちの表現能力は飛び抜けている。
だからこそ、それでご飯を食べていけているわけなんだけど、改めて考えるとやっぱりすごいなと思ってしまう。
だからこそデザイナーという職業は”誰でもなれる職業”ではなく、それでご飯を食べられていることに、みんな誇りを持っているんだ。
もちろん、起業家には別のスキルが必要なわけだ。
スピーチ力、人間性、熱意、ロジカルシンキング、、、挙げればキリがないだろう。
彼ら・彼女らは特段のデザインスキルは持っていないけど、起業家として動く上で必要な素質・スキルを持っている。
それでいい。
彼ら・彼女らはそうやって自分のアイディアを形にするのが役目だからだ。
ただ、そんな起業家がデザインについても精通していたら？
彼ら・彼女らの描く未来の姿は全ての人にスムーズに伝わり、サービスの構造は常に視覚的にも分かりやすく、
なぜ自分の事業が成功するのか、なぜ自分のプロジェクトが社会にとって必要なのか、
そういったことについて、相手にわかりやすい図を見せて深く納得させることができる。
そんな起業家がいたら、最強だ。
きっと他の起業家では太刀打ちできないくらい、その人は強い。
自分の熱意をビジュアル化するという、本来、起業家・デザイナーがタッグを組んでやっと成し遂げられるプロセスを自分１人で完結することができるのだから。
まあ、実際僕は、こんなふうなスーパー起業家で溢れかえった世界を望んでいるわけじゃない。
多分、なんでも一人でできてしまうような人ばかりの世界は、面白くないだろう。
そんな中で僕が思うのは、まさに、「起業家よ、デザイナーであれ！」ということだ。
起業家、デザイナー宣言！
少し付け足すなら、こうなるだろう。
「起業家よ、(ちょっとだけ)デザイナーであれ！」
そう、ちょっとだけ。
それでいい。
起業家たちはデザインに精通している必要はない。
少しでいいからデザイナー的な考えを持ち、少しでいいからそのスキルを持っていてほしいのだ。
これから起業家として活動していくなら、これから先の時代は特にデザイン力が必要になるから、少しだけ勉強しておくと良いだろう。
すでに起業家を名乗って活動しているなら、せいぜいパワーポイントの資料を、文字ばかりで埋め尽くし、せっかくのプレゼンの時間を音読大会にさせないぐらいの工夫をすると良いだろう。
ここだけの話、そういった退屈なプレゼンは、意外と多い（観客としてプレゼンを見に行くとそれがよくわかるだろう）。
僕はそういうプレゼンや資料を見るたびにガックリと肩を落とし、これから始まる数分のプレゼンをどうやって乗り越えようか考える。
目の前に文字だけのパワーポイントが現れ、起業家がそれを一字一句違わず読み出した時、僕は絶望のどん底に落とされる。
別に、起業家が特段のデザインスキルを持っている必要はないのだ。
高度なスキルが必要になったり、自分では分からないデザイン上の課題が現れたのなら、僕たちデザイナーがいる！
だから、あなたは、自分のビジョンを伝えれらるだけのたった少しのデザイン力をゲットしよう！
起業家たちに伝えたいメッセージは、まさにこれだ。
たった少しで良い。 少しで良いから、デザイナーであれ！
もしあなたが起業家なら、是非一度自分のデザイン力を振り返ってみてほしい。
多くの場合、デザイン力なんて持っていないだろうから、ほんのちょっとでいいから、勉強してみてほしい。
パワーポイントのデザインについてはこの本が非常に参考になるので載せておこう。
これから先、自分のアイディアを少しでも相手にわかりやすく伝えられるように、
今一度ここで声をあげよう。
そして、起業家の皆さんはぜひ声を高らかに宣言してほしい。
起業家よ、デザイナーであれ！
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